貨幣・通貨(お金・カネ・マネー)―機能―③価値貯蔵手段
価値貯蔵手段とは
価値貯蔵手段の定義・意味・意義
価値貯蔵手段とは、貨幣の機能の一つで、経済的価値・富を蓄える機能機能をいう。
価値貯蔵手段の位置づけ・体系
貨幣の機能
貨幣には、次の3つの機能があるとされる。
基本的機能 | 価値尺度手段 | 商品の価値を測定する基準となる機能 |
交換手段 | 商品の交換を仲立ち・媒介する機能 | |
派生的機能 | 価値貯蔵手段 | 富を蓄える機能 |
そして、これに貨幣の派生的機能として、交換手段と区別された支払手段(決済手段)や世界貨幣の機能があるとする場合などもある。
『理解しやすい政治・経済』 文英堂、179頁。
価値貯蔵手段の趣旨・目的・役割・機能
資本主義の成立
商品を貨幣に交換して所有することで、商品の価値を永遠に保存することができる。
ただし、この場合の貨幣は、物品貨幣ではなく、永遠の価値を持つ鋳造貨幣または信用貨幣でないとならない。
とすれば、商品を手に入れることを目的として貨幣を使用する(→市場経済)のではなく、より多くの貨幣自体を獲得することを目的として貨幣を使用するという利潤追求の経済スタイルが生まれてくる。
このように、貨幣に代表される資本(つまり、財産)を元手として、事業(市場経済)に投下して利潤追求するという社会経済システムが資本主義である。
なお、「貨幣を使用して貨幣を獲得する」ことを「資本が自己増殖する」と表現することもある。
しかも、現代では、金融市場(株式市場など)が発達し、モノ(実体経済)とカネの結びつきが切れて、カネとカネの交換(マネー経済)が著しく増加している。
こうしてモノとの結びつきがなくなったカネは「暴走」するという深刻な問題がある。
そもそも、金との交換が保証されている金本位制度をやめて、管理通貨制を採用している現代では、カネは「取り決め(ルール)」「作られたもの」「幻想」にすぎなくなるため、増発されてインフレを招きやすいという特色・特徴がある。
お金が登場する前は、世界中の社会が、自給自足の、狩りなどで得たものは貯蔵しない、その日暮らしの生活であった。
ただし、この生活スタイルは非常に不安定なものであった。
そこで、この不安定な暮らしゆえに、何でも平等に分配しあって助けあうというのが、お金が登場する以前の社会のルールであった。
こうした社会においては、富が蓄積しにくく、他人に抜きん出て成功する人は出てこない。
しかし、麦のお金(物品貨幣)によって、従来の横並びの平等の社会は一新され、目覚しい発展が始まる契機となった。
特に、コイン(鋳造貨幣)の登場は、人々の心に大きな影響を与えた。
というのは、コインと、従来の麦、米、塩、ヤギとでは、大きな違いがあったからである。
それは、いつかは腐ってしまう麦などの物品貨幣とは異なり、銀貨などの国家によるコインには永遠の価値があるということであった。
人々は長い間、不確かな世の中で、不安定な人生を生きてきた。
しかし、そこに、いくらでも永遠に商品の価値を貯蔵できるというコインが登場した。
すると、人間の心に、安定した未来が実現する、という希望が初めて芽生えてくる。
つまり、お金・貨幣は、その日暮らしの生活から抜き出して、生活の長期的な設計を可能にした。
人間は自らの手で未来をつくることができるようになったのである。
こうしてコインの登場により、何でも平等に分配して助け合うことで守られてきた暮らしから、リスクを負ってでもお金を稼ぎ、自分の力で未来を切り開いていく、という選択が世界各地で起こった。
そして、お金さえあれば、集団=それまでの人間関係は必要がない。
つまり、お金は集団から切り離された個人も作り出した。
成功するのも失敗するのも個人の責任という、個人個人が自分の才覚で生きる時代の幕開けである。
コインは、果てしない繁栄をもたらすかに見えた。
しかし、コインの原料となる銀の産出量には限界がある。
銀を産出し尽くし、発展の原動力であるコインを失ったアテナイは衰退していった。
しかし、逆にこのことが現代のお金を生み出す原動力となった。
アテナイ没落後、小さな都市国家から世界帝国へと急成長を遂げたのが古代ローマである。
この古代ローマの繁栄の源は変貌したお金であった。
古代ローマでは貴重な銀の純度を下げることで大量のコインを生産したのである。
こうした銀の純度が下がってもお金の価値は変わらない、という仕組みの登場が現代のお金、つまりそれ自体は何ら価値のない、「抽象的な」貨幣(→信用貨幣)へとつながる。
「信頼」を確保するにはもはや銀は必要なく、こうして人類は架空の富を築くことに成功した。
もはや発展への欲望を制限するものはなくなった。
今、世界中で生み出される金融資産は1日約8兆円で、地球上の隅々にまで広がっている。
現代文明は、一人ひとりがお金によって未来を切り開いてきた結果なのである。
しかし、お金は、人間に発展をもたらすと同時に、(もっと持ちたいという)欲望、(持っていないという)不満、そして、格差、さらには、お金を持っている人と持っていない人との間の争いをももたらした。
脳科学によって、人間の脳自体に、より多くのお金を求める仕組みがあることが確かめられた。
自分がお金を儲ければ儲けるほど脳は快楽を感じるようにできているのである。
つまり、人間のお金を求める欲望には限界がない、ということである。
しかし、人間の脳には、同時に、平等・公平さを求める(平等・公平であることに、お金を儲けたとき以上に快感を感じる)仕組みもある、という実験結果もある。
また、歴史的にも、人間は、こうした欲望が暴走するのを抑えるための社会的制度も生み出してきている。
横並びの平等のままでは発展しない、しかし、発展すれば格差が生まれる。
お金がもたらされたとき、人間は発展と格差のバランスを取るという難問に向き合うこととなった。
先の実験では、自分が儲かることより、格差がなくなることのほうにより多くの快感を感じた、という結果が出たが、この実験にはいくつか条件がある。
なかでも重要な条件は、(お金を持っていない・貧乏な)相手が目の前にいるということである。
自分が得したことにより、損をした相手の姿を見ることにより、分かち合うという心が動き始める。
これは、人間が長い時間をかけて、協力し合うという心を進化させてきたからであろう、という。
しかし、現代では、目の前の人以外ともつながって生きている。
この先、こうした生き方に合うように脳は進化していくのか。
たとえば、場所を超えて遠い国の人々や、また、時間を超えて未来の人々にまで、思いを馳せ、分かち合うことができるのか。
その答えはわからない。
お金がもたらされたとき、人間は試されることになったのである。
NHKスペシャル ヒューマン なぜ人間になれたのか(4)そしてお金が生まれた 2012年2月26日放送
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