簿記の分類1―複式簿記
複式簿記とは 【bookkeeping by double entry】
複式簿記の定義・意味など
複式簿記(ふくしきぼき)とは、1つ1つの会計取引について、これを2つの要素(借方と貸方。原因と結果あるいは自分と他人)に分解して(→取引の二重性)、それぞれ勘定科目を使用して分類したうえで同一金額を記録する(→貸借平均の原則)作業=仕訳を行う会計上の技術をいう。
複式簿記の本質
一般に複式簿記の本質として次の2つがあげられる。
ただし、リトルトンはその著『会計発達史』で、複式簿記の本質として、さらに「資本主関係」を加えている。
…、完全な複式簿記が成立するがためには、均衡性と二重性以外にさらに別の要素が加わらなければならない。この追加さるべき要素とは、いうまでもなく、資本主関係―すなわち、所属財貨に対する直接的所有権と発生した収益に対する直接的要求権―である。
リトルトン 『会計発達史[増補版]』 同文館出版、2002年、45項。
1.取引の二重性
複式簿記では取引を2つの要素(借方と貸方)に分解して記録するので、資産、負債、資本(利益)の増減だけでなく、その増減の原因も同時に(=複式で)記録することが可能となる。
たとえば、資産・資本の増加の原因が収益であり、減少の原因が費用である。
ただし、資産・資本の増減の原因は常に収益と費用であるとは限らない。
別の資産・負債・資本の増減が、資産・負債・資本の増減の原因であることもある。
このように1つの取引に2つの要素(借方と貸方。あるいは原因と結果)の両方が含まれていることを、取引の二重性という。
なお、観点を変えると、複式簿記は、1つの取引について、自分の側と取引の相手の側の2つの情報を書く会計帳簿作成の方法ともいえる。
2.貸借平均の原則
そして、この借方と貸方の合計額は常に一致するようになっている。
これを貸借平均の原則という。
複式簿記の目的・役割・意義・機能・作用など
決算書(損益計算書と貸借対照表)の作成
複式簿記の目的は、1会計期間における利益=資本の増加部分(正確には自己資本の増加部分)を、投資の成果である利益とそれを生み出した資本とに区別して記録し(→資本利益区別の原則)、報告すること、すなわち、損益計算書による利益計算=期間損益計算にある。
したがって、複式簿記で記録すべきものは、まずは資本の増減である。
また、貸借対照表では資産から負債を差し引くことでも資本が計算されるしくみになっているので、資本の増減だけでなく、資産と負債の増減も記録する必要がある。
ただし、これだけでは資本の増加部分(いくら資本が増えたのか)はわかっても、どうやって資本が増えたのか、その理由はわからない。
外部の利害関係者は資本が増えた理由も知りたいので、貸借対照表で資本の状態(財政状態)だけを報告しても不十分である。
以上、参考:村形聡 『スラスラ読める 簿記の本』 新星出版社、2004年、41項。
そこで、複式簿記では、1つの取引をつねに結果とその原因の2つの側面に分けて考え(→取引の二重性)、資本等(=ストック)とお金の流れ(=フロー)を統合的に管理する。
つまり、まずは資本・資産・負債の増減に着目するが、次にその増減原因についても同時に記録するということである。
たとえば、ストックが増えたら、その原因となったお金の流れ=フロー(収益・費用)は何か(つまり、資本等が増えた原因は何か)についても考えるということである。
ただし、ストックの増減の原因はフローとは限らない。別のストックの増減が原因となることもある。たとえば、借金をして現金が増えたのであれば、現金というストックの増加の原因は、借金という負債の増加になる。
したがって、実際に取引を記録するうえでも、1つ1つの取引について、これをストックの増減という結果とその原因の2つの要素に分解する。
そして、この分解した2つの要素を、2行にわたって記録するのではなく、それぞれ左右に分けて1行で記録する。
なお、この記録する作業を仕訳という。仕訳で記録する主な内容は取引の内容と金額である。このうち取引の内容については、個別具体的な取引内容ではなく、勘定科目と呼ばれる取引のカテゴリ(取引を分類したもの)を記載する。また、金額については、そもそも1つの取引を2つに分解したにすぎないので左側も右側も同一金額となる(→貸借平均の原則)。
こうして取引を記録していくことで、複式簿記は最終的にはフロー=損益計算書とストック=貸借対照表とからなる決算書を作成することを目的とする。
複式簿記の情報を勘定科目ごとの増減を記録した総勘定元帳などの元帳に転記し、試算表に集計する。そして、最終的には外部の利害関係者に利益を報告するための貸借対照表や損益計算書などの決算書(財務諸表)が作成されることになる。
複式簿記の法的根拠・法律など
企業会計原則
複式簿記で記帳することは、企業会計原則で義務づけられている(→正規の簿記の原則)。
企業会計原則
第一 一般原則
二 企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
複式簿記の位置づけ・体系(上位概念等)
簿記
簿記を、方式・技術により分類すると、次のようになる。
単式簿記
単式簿記と複式簿記との違い
このうち単式簿記が、現金が最終的にいくら残ったかを把握することを目的として現金だけの増減を記録するのに対し、複式簿記は、資産の増大、負債の増大といった現金の増減の原因までも記録する。
簡易簿記
簡易簿記と複式簿記との違い
簡易簿記においても、複式簿記と同様全ての収益と費用について記録する。
ただし、簡易簿記は損益計算書の作成を目的としているため、資産と負債については損益計算書に関係する資産と負債についてのみ記録することになる。
複式簿記の評価・批評
ゲーテが複式簿記を評して「人間精神のもっとも偉大な発明のひとつ」といったことは、有名な話である。
実際、複式簿記の考え方は完成されたものであり、現代でもほぼそのまま使用されている。
複式簿記の歴史・沿革・由来・起源・経緯など
ルネサンス期のイタリアで、レオナルド・ダ・ヴィンチの友人でもある、フランシスコ会の修道士ルカ・パチオリが、ベニスの商人が使用し始めた複式簿記を体系化したといわれている。
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