損益計算書原則―収益・費用の認識基準―実現主義
実現主義とは 【realization basis】
実現主義の定義・意味など
実現主義(じつげんしゅぎ)とは、発生主義の枠内で収益の認識を債権の確定だけでなく収益が実現した時点まで遅らせるという基準をいう。
なお、企業会計原則では、「未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない」という文言がこれにあたる。
実現主義と関係する概念
権利確定主義
実現主義の位置づけ・体系(上位概念等)
収益の認識基準・費用の認識基準
実現主義は、損益計算書の期間損益計算における、収益の認識基準・費用の認識基準(収益・費用をいつ計上するかに関する基準)のひとつである。
なお、収益の認識基準・費用の認識基準には、大別すると発生主義と現金主義の2つの考え方がある。
一般的に発生主義は企業向け、現金主義は家計向けということができる。ただし、企業会計でも、キャッシュフロー会計のスローガンのもと、家計簿的な現金主義の考え方の重要性も見直されてきている。
なお、税法上、発生主義に対する概念として、権利確定主義・債務確定主義がある。
実現主義の適用範囲
収益
すなわち、費用については発生主義が採用されるが、収益については発生主義より慎重な実現主義が採用されている。
企業会計原則
第二 損益計算書原則
(損益計算書の本質)
一 …
A すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
中小企業の会計に関する指針
72.収益及び費用の計上に関する一般原則
企業の経営成績を明らかにするため、損益計算書において一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用を計上する(費用収益の対応原則)。原則として、収益については実現主義により認識し、費用については発生主義により認識する。
実現主義の例外
実現主義の例外として、発生主義にもとづく工事進行基準・延払基準などがある。
実現主義の目的・役割・意義・機能・作用など
保守主義の原則
損益計算書では、継続企業を前提にして会計期間を区切って損益期間計算を行うので、収益と費用はその発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。
しかし、収益について発生主義を貫くと、未実現利益まで計上されてしまうという弊害が起こる。
そこで、実際の企業会計では、費用は発生主義でもらさずに認識するが、収益は保守主義の原則から確実なものだけを認識すべく実現主義が採用される。
これにより、たとえば、粉飾決算などを防止できる。
実現主義のメリットとデメリット
実現主義のメリット
未実現利益の排除
前述したとおり、実現主義を採用することで、発生主義のデメリットである未実現利益の計上という問題を排除でき、企業の利益を確実に計上できることになる。
実現主義のデメリット
不正確な損益期間計算
期間損益の適正性を厳格に保持するには、発生主義を厳格に貫く必要があるが、実現主義を一部採用することで、損益期間計算は不正確となる。
実現主義の具体例
実現主義を具体化した代表的な収益認識基準として、次の2つがある。
1.販売基準
実現主義の「実現」とは、商品を引渡した時点であると解すると、実現主義は、具体的には、売上の計上基準として、売上は原則として商品等を販売した時点をもって計上するという販売基準となる。
販売基準とは、商品等の販売や役務の給付の時点をもって計上するという認識基準である。
各取引の実態に応じて、販売の事実を認識する時点を選択しなければならないため、この販売基準の中にも、さらに次のような実務的・具体的な判定基準がある。
これらの計上基準は、各会社の実態に合わせて選択できるが、いったん採用したら、原則として毎期継続的に適用することを要する。
2.工事完成基準
実現主義の選択
1.一般商品売買の場合
一般商品売買の場合は、上記販売基準のなから選択して適用する。
実務上は引渡基準が一般的である。
次のページも参照。
2.特殊商品売買の場合
特殊商品売買による売上収益にも原則どおり実現主義が適用される。
ただし、特殊商品売買の場合には、一般商品売買の場合以上に、実現主義の考え方が強く要請される。
そこで、企業会計原則注解では、特殊商品売買による売上収益の具体的な実現の基準について特に定めている。
次のページを参照。
3.工事契約の場合
「中小企業の会計に関する指針」
工事契約の場合(受注制作のソフトウェアを含む)は、原則として、工事進行基準(発生主義)を適用する。
ただし、成果の確実性が認められない場合には、例外的に、工事完成基準(実現主義)を適用する。
なお、成果の確実性が認められるためには、次の各要素について、信頼性をもって見積ることができなければならない。
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