仕訳―本質(会計的思考法)
仕訳の本質(会計的思考法)
このページでは仕訳の本質(仕訳の基本的な思考方法・会計的な思考方法)について説明する。
まず、仕訳をする前提としてバランスシート(貸借対照表)を頭の中でイメージする。
バランスシートとは、左側(借方)に記載される、資金の運用を表す資産、そして、右側(貸方)に記載される、資金の調達を表す負債(他人資本)と資本(自己資本。純資産)の3つの部からなる一覧表である。
このうち資本は①株主の出資金(つまり、資本金)と②利益からなることに注意する。
利益は企業の経営活動により生じたものであるが、会計理論上はこのように利益は資本の増加分として資本を構成するものと考える。
つまり、企業が稼ぎ出した利益はその企業自体や社員のものではなく、株主のものであるという考え方である。
参考:『「バランスシート」がみるみるわかる本―会社の「資産・負債・資本」のしくみを完全理解』 PHP研究所、2002年、149項。
そして、このバランスシートには次の2つの原則がある。
上記2つの原則は要約すれば、原因があって結果がある、つまり、無から有が生じることはなく(取引の二重性)、何かを得る(減らす)には必ず同等の何かを減らして(増やして)いる(貸借平均の原則)という簿記の本質である等価交換を意味する。
以上の簿記の最も基本的な考え方や原則を前提にしたうえ、仕訳を行う場合の思考(会計的思考)は次のような過程を順次踏んで行う。
- まず、第一に現金・預金などの資産の増減(資金の運用)を認識することからスタートする
- 次に、この資産の増減は①負債や別の資産の増減(=資本取引)、または②資本の増減(=損益取引)のどちらによるものか(資金の調達)を判断する(例えば、現金が増えたが、それは返済を要するもの=負債か、または、自分のものにして良いもの=資本か)
なお、上記の思考過程の「2-2」の場合においては、貸借対照表のみならず損益計算書まで登場させて、さらに資本の増減理由まで判断している(つまり、収益・費用まで認識している)。
もちろん、資本と資本の増加分を区別せずに資本として一括りにする(つまり、貸借対照表だけで完結させる)仕訳は可能である。
この場合、勘定科目の5つのグループ(資産・負債・資本・収益・費用)のうち登場するには資産・負債・資本の3つのグループだけということになる。
しかし、簿記は企業の経営活動を記録し、投資家・債権者・税務署などの利害関係者に企業の財政状態(貸借対照表)と経営成績(損益計算書)を報告する(ディスクロージャー・情報開示)ことを目的としているが、なかでも資本の増加分としての利益の計算が最も重要である。
したがって、資本として一括りにするのではなく、その内訳である資本金(株主の出資金)と利益とを峻別するために損益計算書で収益・費用の認識をすることになる。
資本は①資本金(株主の出資金)と②利益(資本金の増加分)から構成される。
資本取引と損益取引の関係の歴史的考察
資本取引から損益取引へ
複式簿記は、本来は増加した財産(実在勘定)と減少した財産(実在勘定)を左右に併記する(→取引の二重性)ことにより、均衡を保ち(→貸借平均の原則)、財産を管理しようというものである(→資本取引)。
参考:経過勘定って何だろう?【その2】 | 記帳代行ヘルパー税理士村上正城 http://www.kicho-helper.com/news/accounting/keikakanjyou2.html
たとえば、現金で土地を買った場合、増加した財産(土地)と減少した財産(現金)は均衡し、貸借平均の原則が成り立つ。
したがって、特に貸借対照表における均衡性は決定的事実である。
リトルトン 『会計発達史[増補版]』 同文館出版、2002年、43項。
しかし、たとえば、安く仕入れた商品が高く売れた場合には、増加した財産と減少した財産の均衡性が破られ、貸借平均の原則が成り立たなくなる。
そこで、考え出されたのが名目勘定=損益計算書の勘定科目であり(→損益取引)、これにより貸借対照表と損益計算書のすべての勘定を通して貸借平均の原則が維持されることになった。
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