貸倒れ―期中―貸倒損失の計上
貸倒損失の計上
会計処理方法
貸倒損失の計上の要件
税務上の要件
(原則)
貸倒損失の計上にあたっては、まず、貸倒損失として計上できるかどうかについて税務(法人税基本通達)上の要件が定められているので注意を要する。
要件を満たしているかどうかは慎重な判断が必要になり、要件を満たしていないのに貸倒損失として処理した場合には贈与として取り扱われる(具体的には寄付金や役員賞与勘定で処理することになる)。
税務上、貸倒損失の計上は次の場合にのみ認められている。
- 法的な手続きにより債権の全部または一部が切り捨てられた場合
- 債権者集会の協議決定など合理的な基準により債権の全部または一部が切り捨てられた場合
- 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、債務免除額を書面により通知した場合
- 債務者の資産状況、支払能力等からみて、事実上その全額が回収できないことが明らかになった場合(事実上の貸倒れ)
- 債務者との取引を停止したとき以後1年以上経過している場合など
1.法的な手続きにより債権の全部または一部が切り捨てられた場合
法的な手続きにより債権の全部または一部が切り捨てられた(つまり、債権の全部または一部が消滅した)場合は、その切り捨てられることとなった部分の金額を貸倒損失として損金算入できる(法人税基本通達9-6-1)。
2.債権者集会の協議決定など合理的な基準により債権の全部または一部が切り捨てられた場合
債権者集会の協議決定など合理的な基準により債権の全部または一部が切り捨てられた(つまり、債権の全部または一部が消滅した)場合は、その切り捨てられることとなった部分の金額を貸倒損失として損金算入できる(法人税基本通達9-6-1)。
3.債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、債務免除額を書面により通知した場合
債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、債務免除額を書面により通知した場合は、その通知をした債務免除額を貸倒損失として損金算入できる(法人税基本通達9-6-1)。
4.債務者の資産状況、支払能力等からみて、事実上その全額が回収できないことが明らかになった場合(事実上の貸倒れ)
法的な手続きにより債権の全部または一部が切り捨てられた場合のみならず、事実上その全額が回収できないことが明らかになった場合は事実上の貸倒れとして損金経理をすることも認められている(法人税基本通達9-6-2)。
5.債務者との取引を停止したとき以後1年以上経過している場合など
債務者との取引を停止したとき以後1年以上経過している場合などには、売掛債権(売掛金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない)については、当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をする(つまり、貸倒損失勘定で処理して損金算入する)ことも認められている(法人税基本通達9-6-3)。
法人税基本通達
(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)
9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
(回収不能の金銭債権の貸倒れ)
9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。
(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)
9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。…)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。
(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
なお、「中小企業の会計に関する指針」でも、次の2つの場合には、その金額を貸倒損失として計上し、債権金額から控除しなければならないとしている。
- 法的に債権が消滅した場合
- 回収不能な債権がある場合
(例外)
ただし、破産の場合、個人については破産手続廃止の決定などのあと、さらに免責決定を得ることで債務が免除される(債権者からみれば、債権が消滅する)が、法人については破産手続終結の決定があっても法的に債権を消滅させる免責手続きはなく、債権は消滅しない。
そこで、法人の破産の場合、債権消滅をいつ認識するか(認識基準(計上時期・期間帰属))が問題となるが、この点、税務では、法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになったときに、事実上の貸倒れとして損金経理をすることができる(つまり、貸倒損失勘定で処理して損金算入する)としている(法人税基本通達9-6-2)。
具体的には、破産手続の廃止決定または終結決定がなされた時点が破産債権者にとって貸倒れの時点と解されている(国税不服審判所 平20.6.26、裁決事例集No.75 314頁)。
(平20.6.26、裁決事例集No.75 314頁) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 http://www.kfs.go.jp/service/JP/75/21/index.html
使用する勘定科目・記帳の仕方等
なお、財務諸表等規則32条で破産更生債権等については、貸借対照表上、区分掲記しなければならないと規定されているので、期中、売上債権などの債務者が経営破綻または実質的に経営破綻に陥ったときは、一般債権(売掛金・受取手形・貸付金勘定など)を破産更生債権等勘定に振り替える会計処理も別途必要になるので注意を要する。
「債務者が経営破綻または実質的に経営破綻に陥った」具体例(破産更生債権等の具体例)については次のページを参照。
なお、一般債権と貸倒懸念債権についてはこの会計処理は不要である。ただし、貸倒懸念債権についても貸倒懸念債権勘定に振り替えることもある。
当期に発生した債権が貸し倒れた場合
当期に発生した債権が期中に貸し倒れた場合は、貸倒損失勘定の借方に記帳して費用計上するとともに、一般債権(売掛金・受取手形など資産勘定)の貸方に記帳して減少させる。
前期以前に発生した債権が貸し倒れた場合
前期以前に発生した債権が期中に貸し倒れた場合、貸倒引当金の残高があるときは、貸倒引当金を取り崩して(貸倒引当金を戻し入れて補填する)処理をする。
この場合、貸倒引当金の残高を超える貸倒損失額があればさらに貸倒損失勘定で処理をする。
これに対して、貸倒引当金の残高がないときは、貸倒損失勘定の借方に記帳して費用計上するとともに、売掛金・不渡手形などの資産勘定を減少させる。
取引の具体例と仕訳の仕方
当期に発生した売掛金が回収不能となった場合
得意先が倒産したため、当期に発生した売掛金が回収不能となった。
貸倒損失 | ✕✕✕✕ | 売掛金 | ✕✕✕✕ |
前期以前に発生した債権が貸し倒れた場合で貸倒引当金の残高があるとき
貸倒引当金残高 >= 売上債権の貸倒額
前期以前に貸倒引当金を設定していた売掛金(破産更生債権等に振替処理済み)が貸し倒れたが、その残高が貸倒額を上回っている。
貸倒引当金 | ✕✕✕✕ | 破産更生債権等 | ✕✕✕✕ |
貸倒引当金残高 < 売上債権の貸倒額
前期以前に貸倒引当金を設定していた売掛金(破産更生債権等に振替処理済み)が貸し倒れたが、貸倒額がその残高を上回った。
貸倒引当金 | ✕✕✕✕ | 破産更生債権等 | ✕✕✕✕ |
貸倒損失 | ✕✕✕✕ |
税務上の要件を満たしていないにもかかわらず債務免除した場合
債務者に支払能力があるにもかかわらず、債務免除した場合には、貸倒損失として認められず、贈与として取り扱われる。
取引先の場合
寄付金 | ✕✕✕✕ | 売掛金 | ✕✕✕✕ |
役員の場合
役員賞与 | ✕✕✕✕ | 貸付金 | ✕✕✕✕ |
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