破産更生債権等(破産債権・更生債権等)
破産更生債権等とは
破産更生債権等の定義・意味など
破産更生債権等(はさんこうせいさいけんとう)とは、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)における貸倒見積額の算定に係る債権の区分のひとつとしての破産更生債権等を処理する資産勘定をいう。
なお、「金融商品に関する会計基準」では、破産更生債権等とは、「経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権」と定義されている。
法人・個人の別
法人・個人
破産更生債権等の別名・別称・通称など
破産債権・更生債権等
「破産債権・更生債権等」という表記をしているテキストもある。
村形聡 『ポイント図解式会計 仕訳と勘定科目入門』 株式会社アスキー・メディアワークス、2008年、78項。
破産更生債権等の位置づけ・体系(上位概念等)
貸倒見積高の算定
「金融商品に係る会計基準」や「中小企業の会計に関する指針」では、貸倒見積高(貸倒見積額)の算定にあたり、債務者の財政状態と経営成績等に応じて、債権を次の3つに区分したうえ、それぞれの区分に応じた貸倒見積高の算定方法を規定している。
- 一般債権 … 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権
- 貸倒懸念債権 … 経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか、または生じる可能性の高い債務者に対する債権
- 破産更生債権等 … 経営破綻または実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権
他の勘定科目との関係
破産債権・更生債権・長期滞り債権
使用される勘定科目は固定的ではなく、破産債権・更生債権(または長期滞り債権)などという勘定を使用することもある。
参考:岩崎恵利子 『パッと引いて仕訳がわかる 逆引き勘定科目事典』 シーアンドアール研究所、2009年、96項。
参考:企業会計原則注解〔注16〕流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について
なお、「税理士試験 簿記論 講師日記 : 債権の種類と勘定科目」というサイトでは、「破産更生債権等」は、勘定科目を別建てにするケースが多いようで…勘定科目は、必ずしも固定的ではありません。
とある。
税理士試験 簿記論 講師日記 : 債権の種類と勘定科目 http://bokiron.livedoor.biz/archives/50091862.html
貸倒懸念債権
貸倒懸念債権については貸倒懸念債権勘定を用いる会計処理も考えられる。
ただし、貸倒懸念債権については財務諸表等規則32条で区分掲記が定められていないので、一般債権(具体的には売掛金・受取手形・貸付金勘定など)として処理するのが通常である。また、「金融商品に関する会計基準」は評価に関する基準であって、表示に関する基準ではないので、特に貸倒懸念債権勘定を用いる必要はない。
破産更生債権等に関する会計基準と制度会計
会計基準
- 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」
- 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
- 「中小企業の会計に関する指針」
破産更生債権等の目的・役割・意義・機能・作用など
営業債権は、正常営業循環基準により、流動資産として処理されるのが原則である。
しかし、それらの債権が不良債権化した場合には、その回収不能部分を見積もって、貸倒引当金を設定しなければならない。
そして、こうした債権はもはや正常営業循環からは外れてしまったものと解されるので、ワン・イヤー・ルールによって固定資産として取り扱われる(企業会計原則注解〔注16〕流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について)。
そのための勘定科目が破産更生債権等勘定で、投資その他の資産のひとつとして位置づけられる。
破産更生債権等の範囲・具体例
破産更生債権等はその定義から次の2つの債権がある。
- 経営破綻に陥っている債務者に対する債権
- 実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権
1.経営破綻に陥っている債務者に対する債権
経営破綻に陥っている債務者とは、法的、形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいう。
具体的には、次のような事由が生じている債務者である。
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
2.実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権
実質的に経営破綻に陥っている債務者とは、法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状態にあると認められる債務者である。
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
破産更生債権等の決算等における位置づけ等
破産更生債権等の財務諸表における区分表示と表示科目
貸借対照表 > 資産 > 固定資産 > 投資その他の資産 > 破産更生債権等
区分表示
投資その他の資産
前述したように、破産更生債権等は投資その他の資産に属するものとして表示する。
企業会計原則注解
〔注16〕流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について
受取手形、売掛金、前払金、支払手形、買掛金、前払金等の当該企業の主目的たる営業取引により発生した債権及び債務は、流動資産又は流動負債に属するものとする。ただし、これらの債権のうち、破産債権、更生債権及びこれに準ずる債権で一年以内に回収されないことが明らかなものは、固定資産たる投資その他の資産に属するものとする。
表示科目
破産更生債権等
財務諸表等規則32条で、破産更生債権等などの名称を付した科目をもつて区分掲記(つまり、破産更生債権等への振替処理)しなければならないと規定されている。
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
(投資その他の資産の区分表示)
第三十二条 投資その他の資産に属する資産は、次に掲げる項目の区分に従い、当該資産を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。
…
十 破産更生債権等
…
破産更生債権等の会計・簿記・経理上の取り扱い
会計処理方法
使用する勘定科目・記帳の仕方等
期中
(破産更生債権等)
期中、売上債権などの債務者が経営破綻または実質的に経営破綻に陥ったときは、破産更生債権等については、財務諸表等規則32条で区分掲記(つまり、破産更生債権等への振替処理)が定められているので、一般債権(売掛金・受取手形・貸付金勘定など)を破産更生債権等勘定に振り替える。
(貸倒損失)
会社更正法の更生計画認可の決定・民事再生法の再生計画認可の決定・会社法の特別清算に係る協定の認可などの法的な手続きにより債権の全部または一部が切り捨てられた(消滅した)場合などは、貸倒損失を計上する。
ただし、貸倒損失として計上できるかどうかは税務上の要件が定められているので注意を要する。
要件を満たしているかどうかは慎重な判断が必要になり、要件を満たしていないのに貸倒損失として処理した場合には贈与として取り扱われる(具体的には寄付金や役員賞与勘定で処理することになる)。
貸倒損失の計上に関する税務上の要件の詳細については次のページを参照。
期末(決算時)
破産更生債権等は期末に貸倒見積高を算定したうえ、原則として、貸倒引当金として処理する。
ただし、債権金額または取得価額から直接減額することもできる。
貸倒見積高の算定方法としては、債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額(つまり、回収不能と見込まれる金額)を貸倒見積高とする。
したがって、たとえば、担保の処分見込額と保証による回収見込額がゼロの場合は、債権全額について貸倒引当金を計上する必要がある。
以上、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」より
金融商品に係る会計基準
第四 貸倒見積高の算定
…
二 貸倒見積高の算定方法
債権の貸倒見積高は、その区分に応じてそれぞれ次の方法による。
…
3 破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする。
しかし、税法上、貸倒引当金勘定への繰入限度額が別途定められている。
たとえば、債務者が更生・再生・破産・特別清算などの手続開始の申立てを行った場合には、債権額の50%相当額を限度として、個別評価金銭債権にかかる貸倒引当金の計上を行うものとされている(法人税法施行令96条1項3号)。
そのため、会計上の貸倒引当金がこの税法上の貸倒引当金の繰入限度額を超過する場合は、その金額について確定申告時に別表4で加算調整を行う必要が生じる。
税法上の貸倒引当金の繰入限度額の詳細については次のページなどを参照。
貸倒引当金の設定―貸倒見積額の算定―税法―貸倒引当金勘定への繰入限度額―個別評価
取引の具体例と仕訳の仕方
期中
破産更生債権等への振替処理
売掛金100万円のある得意先が民事再生法の適用をした。
破産更生債権等 | 100万 | 売掛金 | 100万 |
貸倒損失の計上
民事再生法の再生計画の認可の決定があり、上記売掛金の一部50万円が切り捨てられた。なお、この売掛金には貸倒引当金30万円を設定していた。
貸倒引当金 | 30万 | 破産更生債権等 | 50万 |
貸倒損失 | 20万 |
破産更生債権等の税務・税法・税制上の取り扱い
消費税の課税・非課税・免税・不課税(対象外)の区分
不課税取引(課税対象外)
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