自己株式
自己株式とは
自己株式の定義・意味など
自己株式(じこかぶしき)とは、株式会社が発行後に取得して(買い戻して)保有する自己の株式、すなわち、自己株式を処理するための資本勘定をいう。
法人・個人の別
法人
自己株式の科目属性
株主資本の控除項目
自己株式それ自体は他の株式会社が発行した株式と同じく有価証券であり、旧商法では、自己株式は資産として、貸借対照表上、資産計上されていた。
しかし、自社の株式を取得することは、実質的に、株式発行という資本取引とは逆の資本の払戻しであり、出資の払戻し(会社財産の払戻し)としての性格を有する。
そこで、会社法では、自己株式は資産ではなく、純資産の部の株主資本の控除項目として取り扱われており、自己株式は純資産のマイナス勘定(評価勘定)としての性格を有する(後述)。
自己株式の目的・役割・意義・機能・作用など
資本不変の原則
自己株式の取得は資本金を減少させる行為とも考えられるが、資本不変の原則から厳格な資本減少(減資)手続によらなければ資本金自体を減少させることはできない。
そこで、自己株式を取得した場合には、株主資本の評価勘定である自己株式勘定を用いて計上する。
自己株式の位置づけ・体系(上位概念等)
評価勘定
評価勘定には次のようなものがある。
自己株式の取得に関する会計基準と制度会計
自己株式に関する会計処理等を定めた会計基準や制度会計としては、次のようなものがある。
会計基準
制度会計
会社法会計
自己株式の決算等における位置づけ等
自己株式の財務諸表における区分表示と表示科目
前述したように、会社が自己株式を取得することは、実質的に出資の払戻しとしての性格を有する。
そのため、自己株式を他の株式会社が発行した株式(=有価証券)と同様の扱いをすると、債権者や投資家などの企業の財政状態に関する適正な判断を損ねる可能性がある。
そこで、会計上、自己株式は資産ではなく、純資産の部の株主資本の控除項目として取り扱われている。
すなわち、決算時には、期末に保有する自己株式は、貸借対照表の純資産の部の株主資本に対する控除項目として、利益剰余金の次に(つまり、株主資本の末尾に)自己株式の科目をもつて一括して控除する形式で表示する。
企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
7. 取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除する。
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
(自己株式の表示)
第六十六条 自己株式は、株主資本に対する控除項目として利益剰余金の次に自己株式の科目をもつて掲記しなければならない。
自己株式の会計・簿記・経理上の取り扱い
会計処理方法
使用する勘定科目・記帳の仕方等
自己株式を取得したとき
期中、自己株式を取得したときは、その取得原価を自己株式勘定の借方に記帳する。
会社計算規則
第二十四条 株式会社が当該株式会社の株式を取得する場合には、その取得価額を、増加すべき自己株式の額とする。
なお、自己株式の取得に要した手数料などの付随費用は、支出時に支払手数料などの費用勘定の借方に記帳して費用処理をし、損益計算書では営業外費用として計上する。
企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用
14. 自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上する。
自己株式を処分したとき
期中、自己株式を処分したときはその帳簿価額を自己株式勘定の貸方に記帳して減額する。
会社計算規則
第二十四条 …
2 株式会社が自己株式の処分又は消却をする場合には、その帳簿価額を、減少すべき自己株式の額とする。
そして、自己株式の処分の対価と自己株式の帳簿価額とに差額(=自己株式処分差額)がある場合は、当該差額を自己株式処分差益勘定または自己株式処分差損勘定を用いて処理をして、自己株式処分差益はその他資本剰余金に計上し、自己株式処分差損はその他資本剰余金から減額する。
なお、その他資本剰余金から減額しきれない場合は、さらに繰越利益剰余金から減額する。
つまり、自己株式の処分は株主との資本取引と解されているので、その自己株式処分差額は損益計算書に計上せず、貸借対照表の純資産の部のその他資本剰余金を直接増減する。
企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
9. 自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上する。
10. 自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額する。
なお、自己株式の処分に要した手数料などの付随費用は、株式交付費勘定などで繰延資産として処理をするのではなく、支出時に支払手数料などの費用勘定の借方に記帳して費用処理をし、損益計算書では営業外費用として計上する。
企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用
14. 自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上する。
実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い
(1) 株式交付費の会計処理
株式交付費(新株の発行又は自己株式の処分に係る費用)は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。
自己株式を消却したとき
期中、自己株式を消却した場合は、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
具体的には消却の対象となった自己株式の帳簿価額を自己株式勘定の貸方に記帳するとともにその他資本剰余金勘定の借方に記帳する。
企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式の消却
11. 自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
会社計算規則
第二十四条 …
2 株式会社が自己株式の処分又は消却をする場合には、その帳簿価額を、減少すべき自己株式の額とする。
なお、自己株式の消却に要した手数料などの付随費用は、支出時に支払手数料などの費用勘定の借方に記帳して費用処理をし、損益計算書では営業外費用として計上する。
企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用
14. 自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上する。
取引の具体例と仕訳の仕方
自己株式を取得したとき
自己株式を1000万円で取得し、普通預金から支払った。なお、取得には手数料として10万円を要した。
自己株式 | 10,000,000 | 普通預金 | 9,900,000 |
支払手数料 | 100,000 |
自己株式を処分したとき
自己株式100万円を150万円で売却した。なお、売却には手数料として1万円を要した。
普通預金 | 1,490,000 | 自己株式 | 1,000,000 |
支払手数料 | 10,000 | 自己株式処分差益 | 500,000 |
自己株式を消却したとき
保有している自己株式100万円を取締役会決議により消却した。
その他資本剰余金 | 1,000,000 | 自己株式 | 1,000,000 |
自己株式の税務・税法・税制上の取り扱い
消費税の課税・非課税・免税・不課税(対象外)の区分
不課税取引(課税対象外)
消費税法上、自己株式の取得は不課税取引として消費税の課税対象外である。
消費税法基本通達
(自己株式の取扱い)
5-2-9 法人が自己株式を取得する場合(証券市場での買入れによる取得を除く。)における株主から当該法人への株式の引渡し及び法人が自己株式を処分する場合における他の者への株式の引渡しは、いずれも資産の譲渡等に該当しない。
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