売上原価の算定―基本用語―期末商品棚卸高(期末商品たな卸高)
期末商品棚卸高とは
期末商品棚卸高の定義・意味など
期末商品棚卸高(きまつしょうひんたなおろしだか)とは、期末時点の在庫商品(つまり、当期に売れ残った商品)の仕入原価の合計額をいう。
なお、勘定科目としての期末商品棚卸高勘定については次のページを参照。
期末商品棚卸高の目的・役割・意義・機能・作用など
売上原価の算定
簿記は、最終的には会計として利害関係者に企業の財政状態と経営成績を報告することを目的とする。
この目的は貸借対照表や損益計算書などの決算書(財務諸表)といった報告書を作成・公開することで果たされる。
このうち損益計算書は、企業や個人事業主の1会計期間(事業年度)における利益(いくら儲かったのか)を明らかにするために作成するものである。
そして、損益計算書における利益は、次の計算式で算定・算出される(利益計算)。
利益には、売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益の5つの段階がある(→段階利益)が、このうち、当期の粗利である売上総利益は収益=売上高から費用の一要素である売上原価を控除して得られる。
売上原価は、厳密には販売した商品の単価(1個あたりの仕入原価)に販売した数量を掛けて計算するが、この計算は非常に煩雑である(→分記法)。
そこで、売上原価の計算は、決算時に在庫商品を繰越商品勘定などを用いて処理したうえ、期末における仕入勘定の残高(つまり、当期に仕入れた商品の仕入原価の合計額)である当期商品仕入高(いわば、仮の費用)をベースにして、これを売上原価(いわば、確定した費用)に一括して変換して行うのが一般的である(→三分法)。
すなわち、当期商品仕入高のなかには、前期の仕入金額ではあるが当期の費用とすべきもの (前期に仕入れた商品が当期で販売された場合。つまり、前期から繰り越された在庫商品)や、逆に当期の費用とはすべきではないもの(当期に仕入れた商品が売れ残った場合。つまり、当期に売れ残った在庫商品※)が含まれている場合がある。
※当期に売れ残った在庫商品については、売上原価として当期の費用に計上することはできない。
そこで、収益から差し引かれる費用はその収益と何らかの対応関係があるものに限定されるという費用収益対応の原則から、決算時に決算整理事項のひとつとして、当期商品仕入高を次の計算式により売上原価として正しく算定しなおす。
なお、費用と収益の対応関係には①個別対応と②期間対応があるが、売上高と売上原価の対応関係は、個別対応であり、仕入れた商品のうち、売れた分だけを売上原価とし、売れ残った分は売上原価としない。
前期末に商品の在庫がなく、かつ、当期に仕入れた商品がすべて販売された場合には、当期商品仕入高=売上原価となる。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高
企業会計原則
売上原価は、…、商業の場合には、期首商品たな卸高に当期商品仕入高を加え、これから期末商品たな卸高を控除する形式で表示し、製造工業の場合には、期首製品たな卸高に当期製品製造原価を加え、これから期末製品たな卸高を控除する形式で表示する。
この計算式により、当期に仕入れた商品の仕入原価の合計額を表していた仕入勘定の残高は、売上高(収益)に対応する商品の仕入原価=売上原価(費用)を表すものとなる。
企業会計原則
売上原価は、売上高に対応する商品等の仕入原価又は製造原価であって、…
さらに、上記の計算式により売上原価を計算するにあたっては、次の2つの方法がある。
参考:『日商簿記3級 商業簿記 スピード攻略テキスト』 DAI-X出版、2004年、257項。
ただし、いずれの方法を採用するにせよ、期首商品棚卸高(前期から繰り越された在庫商品)や期末商品棚卸高(当期に売れ残った在庫商品)は具体的なかたちがあるモノなので、前払費用勘定などで費用処理をするのではなく、繰越商品勘定などの資産勘定で処理をする。
期末商品棚卸高の計算方法
期末商品棚卸高の計算式・公式
期末商品棚卸高は、次の計算式により、算定・算出をする。
期末商品棚卸高 = 期末商品の数量 ✕ 期末商品の価値(単価)
期末商品棚卸高と関係する概念
期末商品棚卸高の算定①(期末商品の数量の確定)
実地棚卸
期末商品棚卸高を算定・算出するのに必要な期末商品の数量を確定するために実地棚卸が行われる。
期末商品棚卸高の算定②(期末商品の価値の確定)
棚卸資産の評価
期末商品棚卸高を算定・算出するのに必要な期末商品の価値(単価)を確定するために棚卸資産の評価が行われる。
ただし、同じ商品であっても、仕入れごとに単価が異なることがあるため、棚卸資産の評価は簡単ではない。
そこで、商品が実際にはどのように売れたのかという事実どおりにではなく、便宜上、一定の仮説をたてて商品の動きを仮定して計算するという方法がとられる。
これが棚卸資産の評価方法の問題である。
棚卸資産の評価方法には原価法が採用されているため、期末商品棚卸高は取得原価=帳簿価額となる。
しかし、期末においては、商品の時価が帳簿価額よりも下がる場合が出てくる。
この場合、期末の商品の最終的な貸借対照表価額を決定するために、時価を基準にして商品の価値を再評価すべきか(低価法)、それとも再評価せずに原価法による評価額をそのまま使用するのか、ということが問題となってくる。
これが棚卸資産の評価基準の問題である。
この点、期末商品の時価が取得原価より低い場合は、時価で商品を評価する低価法が強制適用される。
期末商品棚卸高の決算等における位置づけ等
期末商品棚卸高の財務諸表における区分表示と表示科目
損益計算書 > 経常損益の部 > 営業損益の部 > 売上原価
期末商品棚卸高の表示方法
企業会計原則では、三分法による記帳方法を前提として、損益計算書の売上原価の項目に、期首商品棚卸高に当期商品仕入高を加え、これから期末商品棚卸高を控除する形式で表示することとしている。
企業会計原則
売上原価は、…、商業の場合には、期首商品たな卸高に当期商品仕入高を加え、これから期末商品たな卸高を控除する形式で表示し、…
また、財務諸表等規則でも、損益計算書の売上原価の内訳として、期首商品棚卸高、期末商品棚卸高、当期商品仕入高を区分掲記することとしている。
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
(売上原価の表示方法)
第七十五条 売上原価に属する項目は、第一号及び第二号の項目を示す名称を付した科目並びにこれらの科目に対する控除科目としての第三号の項目を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。
一 商品又は製品(半製品、副産物、作業くず等を含む。以下同じ。)の期首たな卸高
二 当期商品仕入高又は当期製品製造原価
三 商品又は製品の期末たな卸高
ただし、会社計算規則では、売上原価の表示については、その総額のみの表示をすればよいことになっている。
すなわち、売上高から売上原価を控除して売上総利益を表示し、そこから販売費及び一般管理費を控除して営業利益を表示すればよいことになっている。
会社計算規則
(売上総損益金額)
第八十九条 売上高から売上原価を減じて得た額(以下「売上総損益金額」という。)は、売上総利益金額として表示しなければならない。
期末商品棚卸高の会計・簿記・経理上の取り扱い
会計処理方法
使用する勘定科目・記帳の仕方等
期末(決算時)等
決算時に決算整理事項のひとつとして期末商品棚卸高などを用いて売上原価の算定を行う。
この場合、前述したように、次の2つの方法がある。
参考:『日商簿記3級 商業簿記 スピード攻略テキスト』 DAI-X出版、2004年、257項。
現在のページが属するカテゴリ内のページ一覧[全 20 ページ]
- 売上原価とは
- 売上原価の算定(売上原価の計算)
- 売上原価の算定―基本用語―棚卸資産
- 売上原価の算定―基本用語―期首商品棚卸高(期首商品たな卸高)
- 売上原価の算定―基本用語―当期商品仕入高
- 売上原価の算定―基本用語―期末商品棚卸高(期末商品たな卸高)
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―①実地棚卸(棚卸・棚卸し・たな卸)(数量の確定)
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―個別法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―先入先出法(先入れ先出し法)
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―後入先出法(後入れ先出し法)
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―平均原価法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―平均原価法―総平均法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―平均原価法―移動平均法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―平均原価法―単純平均法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―最終仕入原価法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―②棚卸資産の評価(価値の確定)―棚卸資産の評価方法―原価法―売価還元法
- 売上原価の算定―期末商品棚卸高の評価―③棚卸表の作成
現在のページが属するカテゴリのサイトにおける位置づけ