保険料(支払保険料)
保険料とは
保険料の定義・意味など
保険料(ほけんりょう)とは、期間が1年以下の、役員や従業員を被保険者として掛け捨てで支払う生命保険や損害保険などの保険料(掛金)を処理する費用勘定をいう。
保険料の別名・別称・通称など
支払保険料
保険料は支払保険料(しはらいほけんりょう)ともいう。
法人・個人の別
法人・個人
保険料は法人・個人で使用する勘定科目である。
保険料の範囲・具体例
保険料の範囲
死亡等により受け取る掛捨ての保険部分(=死亡保険金に相当する部分)
一般に、保険には、死亡等により受け取る掛捨ての保険部分と、満期または解約により受け取る積立ての貯蓄部分がある。
保険料勘定は、このうち、掛捨ての保険部分の保険料(掛金)を処理するための科目である。
これに対して、満期により受け取る積立ての貯蓄部分(=満期返戻金に相当する部分)については、預金や金融商品と同様の経済効果があり、資産計上をする必要があるため、保険積立金勘定で処理をする。
しかし、たとえば、生命保険では、表向きは単なる、本来の生命保険(保険部分だけからなる生命保険)であるが、満期返戻金ではなく、解約返戻金を高くする(解約返戻率が90%以上、中には97~98%とほぼ100%近く戻ってくるものもある)ことにより、実質的には貯蓄性の高い商品も各種存在する。
こうした商品については、税法上の規制がないため、損金算入できることになる。
ただし、この種の商品は販売時点では適法であっても、後に税法改正により無効とされる場合も多い。
また、経営セーフティ共済については、40カ月以上掛金を納付していれば、解約による解約手当金というかたちで100%戻ってくるが、税法上、正式に掛金の全額必要経費算入または損金算入が認められている。
こうした解約により受け取る積立ての貯蓄部分(=解約返戻金に相当する部分)は、実質的には貯蓄性のある保険料ではあるが、会計上は「掛け捨て」の保険料として本科目で費用処理をする場合がある。
この場合、いわゆる簿外資産となる。
保険料の具体例
保険料として処理をするものとしては、具体的には、次のようなものがある。
生命保険
損害保険
経営セーフティ共済の掛金
中小企業退職金共済の掛金
次のページを参照。
他の勘定科目との関係
福利厚生費など
生命保険料については、契約内容によっては、福利厚生費や給与科目で処理すべき場合がある。
社会保険料
社会保険料(健康保険や厚生年金保険など)や労働保険料は、保険料では処理をせず、福利厚生費で処理をする。
車両費
強制保険料や1年以内の任意保険料は車両費で処理をすることもある。
保険料と関係する概念
類似概念・類義語
損害保険料
保険料の決算書における位置づけ等
保険料の財務諸表における区分表示と表示科目
損益計算書 > 経常損益の部 > 営業損益の部 > 販売費及び一般管理費 > 保険料
区分表示
販売費及び一般管理費
保険料は販売費及び一般管理費に属するものとして表示する。
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
(販売費及び一般管理費の範囲)
第八十四条 会社の販売及び一般管理業務に関して発生したすべての費用は、販売費及び一般管理費に属するものとする。
金融庁総務企画局 『「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)』
84 規則第84条に規定する販売費及び一般管理費に属する費用とは、会社の販売及び一般管理業務に関して発生した費用例えば販売手数料、荷造費、運搬費、広告宣伝費、見本費、 保管費、納入試験費、販売及び一般管理業務に従事する役員、従業員の給料、賃金、手当、 賞与、福利厚生費並びに販売及び一般管理部門関係の交際費、旅費、交通費、通信費、光熱費及び消耗品費、租税公課、減価償却費、修繕費、保険料、不動産賃借料及びのれんの償却額をいう。
保険料の会計・簿記・経理上の取り扱い
会計処理方法
費用の認識基準
発生主義または現金主義
保険料を前払いしている場合は、発生主義により、原則としては前払保険料(または前払費用)勘定などで処理をするということになるが、継続適用を前提にして(→継続性の原則)、現金主義により、支払時にすべて保険料勘定などで費用処理をする(ただし、支払った日から1年以内のものに限る)ことが認められている(詳細については後述)。
使用する勘定科目・記帳の仕方等
一般に、保険には、貯蓄性のない掛捨型と、掛け金の一部が積み立てられ、貯蓄性のある積立型とがある。
掛捨型の保険料は、保険料(または支払保険料・損害保険料)などの費用勘定の借方に記帳して費用計上する。
これに対して、積立型の保険料は、満期返戻金に相当する部分(=満期により受け取る積立ての貯蓄部分)については保険積立金(積立保険料ともいう)勘定(資産)などを使用して資産計上する必要がある。
自動車保険
強制保険(自賠責保険料)は長期前払費用にしなくてもよく、支払い時に全額費用として処理することが認められている。
これに対して、数期にまたがる任意保険の会計処理には、次の2つの方法がある。
- 前払いの保険料を支出したときは前払保険料(または前払費用)や長期前払費用勘定で資産計上し、期末に経過分を保険料勘定へと振り替えて徐々に費用化する(→資産法)
- 前払いの保険料を支出したときは保険料勘定で費用処理をし、期末に未経過分を前払保険料(または前払費用)や長期前払費用勘定で資産計上して費用の繰延をする(→費用法)
生命保険
生命保険は、保険の種類により会計処理が異なるので実務上はその処理が難しい勘定科目である。
特に、生命保険会社の新商品を利用する場合には、その都度その会計処理について検討する必要もある。
ただし、生命保険会社はサービスの一環として当該事業年度に支払った保険料合計額および保険料の経理処理方法の案内を郵送してくれ(インターネットを通じた案内もある)、決算時の会計処理の参考資料として提供してくれる(保険料経理処理案内サービス)ので、そこで解説されている仕訳にしたがうとよい。
期末(決算時)等
決算整理事項(決算整理仕訳)
保険料については、発生主義にもとづき、原則として、期末に決算整理事項のひとつとして費用の繰延(費用法を採用している場合)または費用の見越を行う。
当期に費用として支払った金額に次期以降の期間に対する費用が含まれている場合、原則として期末に未経過分を資産計上して費用の繰延をする必要があるので、次の3つの部分に分けて処理をする。
ただし、重要性の原則から、重要性の乏しいものについては、継続適用を前提にして、支払時にすべて費用処理をすることが認められ、前払費用(つまり、資産)に計上しなくてもよいとされている。
換言すれば、保険料などの前払費用については、費用の認識基準として、原則とされる発生主義ではなく、現金主義が例外的に認められているということである。
企業会計原則
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
…
(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
なお、税務上も、この企業会計上の重要性の原則に基づく会計処理が認められ、短期の前払費用について、収益との厳密な期間対応による繰延経理をすることなく、その支払時点で必要経費または損金に算入をすることが認められている。
短期前払費用の取扱いについて|法人税目次一覧|国税庁 https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/02/03.htm
所得税基本通達
(短期の前払費用)
37-30の2 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの をいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを 認める。
法人税基本通達
(短期の前払費用)
2-2-14 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するも のをいう。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
当期の費用として計上すべきであるが、次期以降にその支払を行うため当期の費用として計上されない場合、費用収益対応の原則から、当期に計上すべき費用を、次期以降に支払うことを見越して当期の費用に計上する会計処理(費用の見越)を行う。
具体的には、保険料勘定(費用)の借方に記帳して当期の損益計算に計上するとともに、未払保険料(または未払費用)勘定(負債)の貸方に記帳して貸借対照表の負債の部に計上する。
なお、支払日が到来しているのに未払いの保険料がある場合には、未払金勘定で処理をする。
企業会計原則
(3) 未払費用
…、このような役務に対する対価は、時間の経過に伴い既に当期の費用として発生しているものであるから、これを当期の損益計算に計上するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない。
ただし、重要性の原則から、重要性の乏しいものについては、継続適用を前提にして、負債に計上しなくてもよいとされている(つまり、わざわざ未払費用に振り替える必要はない)。
企業会計原則
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
…
(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
取引の具体例と仕訳の仕方
保険料を月々支払う場合
すべて掛け捨ての保険料の場合
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
(支払)保険料 |
××××
|
現金 |
××××
|
積立の部分もある場合
保険料10万円を支払った。なお、保険料のうち8万円は満期返戻金(積立ての貯蓄部分)に相当する。
保険積立金(積立保険料) | 8万 | 普通預金 | 10万 |
保険料(支払保険料) | 2万 |
向こう1年分を前払いする場合
1年分の火災保険料24万円を4月1日に現金で支払った場合。会計期間は1月1日~12月31日。
なお、この場合、次期1月1日~3月31日の3ヶ月分の保険料(6万円)を前払いしたことになる。
1年分の火災保険料24万円を4月1日に現金で支払ったとき
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
保険料 |
240,000
|
現金 |
240,000
|
12月31日決算時の決算整理仕訳
当期に費用として支払った金額の中に次期以降の費用が含まれている場合、当該費用を当期の費用から控除し、次期以降に繰り延べる必要がある(費用の繰延)。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
前払保険料 |
60,000
|
保険料 |
60,000
|
次期1月1日の再振替仕訳
次期首には、資産として繰り延べられている金額を費用に戻す処理(再振替仕訳)が必要になる。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
保険料 |
60,000
|
前払保険料 |
60,000
|
保険料の税務・税法・税制上の取り扱い
保険料の必要経費算入(所得税法)・損金算入(法人税法)の可否
必要経費算入の可否(所得税法)
生命保険
個人事業主の場合、事業主自身の生命保険料等は、必要経費に算入することはできない。
これに対して、会社の場合は、社長、役員の生命保険料も損金算入することができる。
これが会社設立・法人化するメリットの一つといわれることもある。
親族の建物
親族の所有する建物に関する保険料(その他、水道光熱費、固定資産税なども)は生計一(生計が同じか別か)、有償無償に関わらず、必要経費に算入できる。
消費税の課税・非課税・免税・不課税(対象外)の区分
非課税取引
消費税法上、保険料は非課税取引として、仕入税額控除の対象とならない(消費税法別表第一)。
No.6201 非課税となる取引|消費税|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6201.htm
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